追憶

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 ‘着ぶくれて熱いコーヒー先ず一杯’ 

他界した祖母の句集の中で、「なんとなくいいな」と思っている句である。
私が幼い頃から祖母は句を作ることを楽しみにしていた。
部屋に遊びに行くたびに私にも「作ってみ」と勧めたが、五七五の決まりごとがあまりにも多すぎ、
当時の私にはおもしろくなくて俳句仲間になれず祖母をがっかりさせた。

 そんな二人きりの部屋で祖母はよくコーヒーをいれてくれた。
インスタントだったが、古めかしい花柄のカップに始めから砂糖を入れて甘くしてくれる。
二人は丸くなりながらコーヒーをすすり、しばらくすると祖母は押入れからアルバムを出す。
色褪せたページをめくりながら指差す写真と昔話はいつも決まっていた。
きっと飲んだコーヒーの数だけ同じ話を聞いただろう。

 一度だけ「おじいちゃんの写真はなんで無いの?」と聞いた事がある。
「ぜ~んぶ焼けてしもてんよ、空襲で」と淋しそうにつぶやき、もう一度小さく「焼いてしもた・・・」と答えた。
甘かったコーヒーが一気に苦味を増した。
なんて残酷なことを聞いてしまったのだろうと子供ながらに後悔をし、そそくさと帰ってきた。

 我が家のコーヒーマシンではお決まりの「挽きたての味と香り」こそ楽しめるが、
あの頃の悲しいほど甘くて苦いコーヒーはもう二度と味わうことができない。
 祖父を戦争で亡くし新婚生活を奪われた祖母は五十七年ぶりに祖父と再会し、
今頃は二人で熱いコーヒーをすすっているのだろうか。
遠い遠い昔話を繰り返しながら・・・


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祖母の十三回忌を終えて白浜から帰ってきた。
これは、亡くなった時に地方紙に掲載された原稿から。

神戸から疎開し、ずっと白浜の片田舎で過ごした祖母。
田舎にはないものがたくさんあって楽しかったと話しながら
女中奉公の時に習ったというピアノを時々弾いてくれた。
「金襴緞子の帯しめながら~花嫁御寮は何故泣くのだろ~」という物悲しい歌や
日の丸の歌が十八番。


静かに、穏やかに家族がみんな幸せでいられますように。。。